濡れない紫陽花
僕のせいなのに。
(美雨のせいじゃないのに)
そう言いたかった。
だけどあの時僕は美雨を置き去りに逃げた。
そんな奴にそんな事を言われても、偽善じゃないか。
続ける言葉を見つけられずにいると、僕の困惑を見越したように、美雨が言う。
「私、葉を憎んだりしてないよ。葉がちゃんと…避妊してくれてたのも知ってる。想像なんてつかない事だったよね。逃げて、普通だと思う…」
どこまでも、どこまでも、美雨は綺麗。
絶対に、人に泥をかけようとしない。
(僕は愛した人に泥をかけたのに)
「……葉が逃げ出す気持ち、私にはわかった。だから私も逃げ出したの。葉と、お別れするのは悲しかったけど、振り切れるように転校もして…」
「そしたらね、妊娠、してなかったんだよ。…バカみたいだよね」
美雨は、泣いていた。
僕も、泣いていた。
僕らに合わせて、ぽつんと、雨が降り出した。
バカみたいなんて言葉で済まされる事じゃない。
もし僕が、逃げ出さずに寄り添っていたのなら、笑って済むだろうけど。
僕は君を捨てて、君は雨に打たれたんだ。
(バカみたいだなんて)
(そんなんじゃ、済まされない)