濡れない紫陽花
僕は美雨を抱きしめていた。
美雨は僕の胸で泣いていた。
抱きしめる権利なんてないのに。
胸を貸せる立場になんていないのに。
さっきまで香っていた甘い匂いが、降り出した小雨に消されていく。
偶然の再会も、もう終わりだと告げて。
この、少し大人っぽくなった美雨は、僕の愛した美雨じゃない。
僕が捨てた美雨なんだ。
ごめんね。
ごめんね。
ごめんね。
君は、目が覚めるほど美しい人だけど、
決して強くなかった。
それなのに、僕が脆かったせいで
強さを強要させてしまった。
本当は、この咲き乱れる紫陽花のように、繊細な花びらで――
僕はそれを、守りたかったのに。