濡れない紫陽花
さよならの時がきた。
やっと、決心がついた。
(今度こそ、本当の。)
ごめんね、そう告げて、抱きしめていた腕をほどく。
僕らの間に少しの距離が出来て、やはり空からは雨が降っている。
僕に降るのは、後悔の雨粒。
君に降るのは、綺麗な雨粒。
美雨が、僕の手を掴んで、離そうとしない。
「そろそろ戻らないと、学校に遅れるよ」
(だから、ね?)
そう言うと、寂しそうに手を離した。
まだ、そんな顔をしてくれるんだね。
優しさを、踏みにじって、ごめんね。
僕が汚した穢れを、雨に流されていくんだよ。
口にはしなかった。
「またね。」
そう言って手を振った。
「うん。」
君が、弱々しい笑顔を見せる。
美雨が紫陽花の道を引き返して、あの角を曲がるのを見届ける。
角を曲がるとき、また手を振ってくれた。
君は、本当に優しい。
今度こそ、その優しさを汚さないように。
僕は、遅すぎた罰を受けるよ。
(さよなら。)