濡れない紫陽花
ごめんね。
ごめんね。
ごめんね。
ずっとそう、つぶやき続けた。
最後は、君への謝罪でいっぱいでいたい。
そう、思ったから。
雨が、強くなった。
紫陽花が、雨に打たれてる。
綺麗だね。
(ずっと、想っていたんだ。)
紫陽花を眺めていると、やっと僕の望んだ罰がやってきた。
あの土砂降りの日に、君を置き去りにして
一人濡れずに済んだ、僕の罰が。
ごめんね。
ごめんね。
ごめんね。
さよなら。
1台の車が走ってくる。
僕を轢きにきてくれた。
痛みなんてないよ。
君の痛みを思えば。
体が宙に浮いて、全ては一瞬のこと。
さっき君が拭いてくれたメガネのレンズを通して
最後に見たのは、道路わきの紫陽花たち。
紫陽花から甘い匂いが微かに香ったような気がした。
さよなら、美雨。
(ずっと、想っていたんだ)
紫陽花に降る雨が、とても美しいと。
(君の、名前のように。)
〔End〕