濡れない紫陽花
けれど、まったく笑えなかった。
始業式を始めるから体育館へ移動しろと、教師からの放送が入る。
立ち上がる生徒達でガヤガヤし出した教室に、やっと僕の前の席の女が入ってきた。
一瞬、教室中が止まったようだった。
彼女は、あまりに綺麗だった。
胸まで伸びた優しい色の髪がなびいて、眉までの前髪が揺れる。
その下に大きな目があって、唇はてらてらと…少しいやらしい色で。
ほら、みんなが見てる。
見たこともないような美しさだった。
いつまでも眺めていたいような美しさだった。
だけど、いつまでもじろじろと見ているわけにはいかない。
そう思ったのか、止まっていたクラスの時間がまた流れ出す。
みんな、そそくさと教室を出て体育館へ向かっていく。