濡れない紫陽花
 
僕だけが、ぼうっとそこにいた。





「ねえ」





気付くと、彼女がこちらを向いている。

その大きな目が、メガネ越しに僕の目を焼く。






(ジュウって、焦げた音…聞こえなかった?)







本当に、熱い。

けれど、彼女は僕の焼け焦げた目なんか構わずに続ける。




「みんな、どこ行ったの?」


「…体育館だよ、始業式だって」


「そっか、ありがとう」



グロスでてらてらした唇が動いて、そう言う。


そのピンクの色彩が、絡みつくように僕の胸を犯した。






(たすけて。)


心でそう、つぶやいた。
 
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