KISS ME !
「シンダさん、もう来たのー?」
笑いながら扉を開けると、同じく笑顔の、ちょっと頬を紅潮させたシンダさんがあたしを見つめていた。
きっと、何かあったんだ。
別に悪い意味じゃない。
前は中庭に連れて行ってくれたし、図書室にも連れて行ってくれた。監禁されているような状態のあたしには、それがすごく嬉しくって。
「Bn:0に見せたいモノがあるって、前に行ったでしょっ?」
あたしは自分がBn:0(ビーエヌゼロ)と呼ばれるのがあまり好きじゃない。
自分の名前は怪我をした時に飛んだのか、覚えてない。だけど、科学記号みたいな呼ばれ方も嫌だった。
あたしにあったはずの名前や記憶。
あたしにあったはずの左腕。
あたしにあったはずの左目。
何よりも、一緒にいた友達や家族。
あたしは戦争に、全てを、奪われた。
「鬱だぁーシンダさんどーしよー」
「大丈夫よ、あなたは強いから」
シンダさんは息を弾ませながら言い、扉を閉めた。
そしてコーラを見つけると、一気に飲み干す。
能天気だな、なんて思ってしまい、飲みかけのコーヒーを吹きそうになった。