あ い た く


よほど興奮したのか男の人が仕事を忘れたみたいで敬語が抜けている


なんだかそれが嬉しくてクスクス笑ってしまった




「どうぞ?」


「むぎぃ~おいで~」



自分の名前を呼ばれた"むぎ"は一瞬だけその場で立ち止まってから


"にゃ"と鳴きながら男の人の手の中に納まる




「おまえ、自分の名前分かるのなぁ」




目を細めて笑うと小さな"むぎ"を抱き上げた



「よ~し、高い高~い」



大きな掌に乗る"むぎ"を顔の高さまで掲げると


アッシュグレーの髪から覗く額を"むぎ"の小さな額と合わせた




「可愛いな」



―――トクン―――


何でもない仕草



それなのに、あたしの心を掴んだの…




その風景をただ息を潜めて見つめていた


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