ビタースイート・キス
「俺の前で吸う奴、初めて見たわ」

声の主はゆっくりと歩み寄り、あたしの視界に革靴が映る場所でぴたり足を止めると、盛大な溜め息を吐く。


「言うねぇ。俺の前で吸う女なんていないって?」

媚びて落ちるなら、とっくにやっている。

あたしは茶化すように「そんな必要、どこに?」と笑い、丁寧に磨き上げられた革靴から辿って横に並ぶ主の顔を覗き込むと、「違ぇよ、馬鹿」呆れたように言う声の主は、

「お前は生徒で、俺は教師だろ」

顔をしかめ、あたしに現実を突き付けて。


教師と、生徒――…


あたしは絶対的な領域を持つその言葉に、息を詰まらせた。
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