ビター チョコレート
「甘かったか?」
私の腰に回していた腕を離し、自分の唇を親指で拭いながら、彼はニッ…と口の端を上げて意地悪そうな笑顔を見せた。
それは、いつもの冷たい感じの上司の顔ではなかった。
「苦……かったです」
チョコレートだけではなく、彼のキスそのものが苦かった。
彼女がいる人とのキス。
遊びの……キス。
「彼女がいるのに、何でキスするんですか?」
私は平静を装って、そう聞いた。
本当はドキドキしていたのに。
「さあ。したいって思ったからかな」
彼は、悪びれもせずに、しれっ…と答えた。