太陽はいつも雲の上で照り輝いている
動けない、父のそばに、兄が来て、父の肩に手を置いた

『お父さん、お母さんは?』

説明もおぼつかない最中

先生が口を開いた
『ご主人、ご家族の方、こちらに…奥さんは今も意識は回復しておりません。心臓停止から、限度とされてる時間を10分越えていたので、この期の意識の回復、また回復されても、いずれかの脳に障害をもたれる可能性もあります。このまま意識が回復しない、脳死状態に移行する可能性もあります。まだまだ油断は出来ません』


父と兄は、ただ、そこに立ち尽くし二人の意識も前すら見えないくらいに遠くに置き去りになっていた

突然に父が
『お兄ちゃん、わし、御百度参り行ってくる…』

『今から……』

父は、まだ、日も明けない、片道一時間半を使い、母に対する思いを、大阪茨木にある、御百度参りに込めた
冷たい石の上を何往復もし、赤くしもやけた足をひたすら前に出し歩いた


時計は朝の10時を指していた…

『ご主人は?あっ、ご家族の方ですね』

『はい』

『今、意識をもどされました、本人さんは、何が起きたか少し、パニック状態ですが、心配されている一つは、どうやら大丈夫です。後は、脳障害が、どこまであるかは今の段階ではわかりませんので』

『わかりました。ありがとうございました』


父も寝ずにすり減らした足を引きずりながら母の元に帰ってきた

『あっ、お父さん…お母さん、意識戻ったみたいやで』

『そかそか』

お父は、そこに泣き崩れた
手は冷たく、体は冷えきって、足は立ってられないほど、赤く、まるで大きな硬い大木の様に張っていた
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