ふたりで、生きよう
さっき私は豪ちゃんの車に乗るのが楽しみだと言ったが、本当は「豪ちゃんと一緒にいられるのが嬉しい」のだ。

もちろん車も楽しい。
だけどやはり豪ちゃんと過ごす短い時間には敵わない。
私にとってかけがえのない時間だ。


私は豪ちゃんの車の後ろのドアを開け後部座席に座った。
もちろん豪ちゃんは運転席。


私は決して助手席には座ってはいけない。
一度座ろうとしてなぜか豪ちゃんにひどく怒られた事があった。
何でも運転中に隣りに人がいると気が散って仕方ないからだそう。

だから私は座りたい気持ちを我慢して後部座席に座る。

見えるのは豪ちゃんの形の良い後頭部とバックミラーにチラリと写る豪ちゃんの左目だけ。


「なあ、撫子」

「んー?何?」


豪ちゃんが片手でハンドルを握りながらルームミラーで私を見た。
やっぱり格好いい。


「お前さ毎日毎日来るけど、放課後一緒に遊ぶ友達とかいないわけ?」


何だそんな事か。


「友達なら多くはないけどちゃんといるよ。でも豪ちゃんとこうして一緒に帰るのが一番の楽しみだから」

「それじゃ友達減るんじゃないか?」

「そんな事で離れていくような友達なら私はいらないよ」


本当にそう。
遊べないだけで離れていく友達だなんて私はいらない。
一緒にいるだけが友達ならそんな軽いモノは必要ない。


「……そっか」


豪ちゃんは私が言い切ると少し声のトーンを低くしてもうその話題には触れてこなくなった。
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