リトルロード・セレナード ~赤の王女と翡翠の騎士~
「成れるさ。生まれつきの騎士ならば、いつか必ずや栄光を取り戻す。君たちは己を卑下し、あきらめているだけだ」
「生まれつきの、騎士?」
 アレクシスは少年の巨体から離れ、ホコリだらけになった剣を一本、少年の前に差し出した。
「誓いたまえ」
 揺るぎのない言葉。
「己の剣に、家紋に、全てを統べる王に。偽りのない誠意と騎士の誇りを! そしてバカにしている者達に、騎士になって見返してみせればいい!」
 少年達から応答はなかった。
 新しく持ち込まれた陽の光。
 心が色鮮やかに焼かれていく。

 こうして城にあがったばかりのアレクシスは、騎士見習い達の頂点に躍り出た。
 性根の腐りきっていた少年達から尊敬と憧れを勝ち取り、次々に成果をなしとげ、異例の若さで出世していった。
 唯一の悩みは、変わることのない汚い寝床。
 大部屋から数人の部屋にかわっても、寝返りを打つのが精一杯。
 これも試練だと、アレクシスは孤独と郷愁感を理性でねじ伏せて、騎士として暮らしていった。
 
 そんな地道な努力が実ったのが、十三歳の春だった。
「護衛部隊に? 私がですか?」
 幼い姫君が、后と一緒にお忍びで北の貿易都市へ出かけるという。
 北はカーナヴォン伯爵領。
 アレクシスが生まれ故郷であることと、姫の遊び相手として適当な年頃という判断を受けたのだ。
「さよう。フランディール侯爵領のスゲラニカンを抜けて、カーナヴォン伯爵領に入る。バーマス、スランヘドル、ハーレック、ポルスマドックとこまめに休む予定ではあるが、結構な長旅になるな。土地勘のある者が必要なのだ、来てはくれないか」
「もちろん参ります!」
「それはよかった。では支度を頼む。北の森に関しても、南の我々より、君の方がよく知っているだろう。期待しているぞ」
 騎士団長は満足げに頷いて立ち去っていった。
「北の森、か」


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