bitter sweet mind

「こ、これだぁぁぁぁ!!」

 あらんかぎりの歓喜という名の絶叫に散歩中のチワワちゃんが驚愕して紫色の髪のおばさんの手を振り払って走り出したところを入れ歯を落としかけたおじいちゃんが避けようとふがふがいいながらトリプルアクセルしてヤンキー座りしていた赤毛の男の子が煙草をポイ捨てしようとしてキツネの形になっていた手の上に見事に着地して悪事を未然に防いだ。

 って、あぁなんだかあまりの奇跡的な出逢いに動転しちゃった。

 こほんっ。

 気を取り直して再び雑貨屋に足を向け、それを改めて眺める。

 電気式のそれはバレンタインらしく赤い塗装がほどこされていて、容器のサイズはちょっと大きめのどんぶりくらい。

 説明書には市販のチョコと牛乳、生クリームとお好みでリキュールを入れるといいと書いてある。

「うん。うん」

 後はてきとうなフルーツさえあればいいわけで。

 これなら失敗のしようがない。

 素早くお財布の中身をチェック。

 うっ。

 さっきの材料費でかなり散財しちゃったなぁ……。

 でも、まぁ、なんとか大丈夫かな。

 今月ケーキを買う量を減らせば……。

「よし! すみませ~ん」

 こうしてわたしは陳列されたチョコフォンデュセットのひとつを手にとり、はやる気持ちを抑えつつレジへと小走りに向かったのだった。

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