扉の向こう
記憶
「初めての方でいらっしゃいますね?」

「は、はい」

「では、ご用件をお伺いしましょうか」

「あの・・・私の記憶が、欲しいんです」

「記憶、でございますか・・。よろしければ、少しお話を伺っても?」




「昨日のこと、としか思えないんです。友人と4人で遊びにいって、買い物をしたりレストランに行ったり。・・でも、みんなが違うって言うんです。それは一月も前の話だ、って」


「それでは、あなたは何故か無くしてしまった一月の間の記憶を取り戻したい。ということでよろしいですね」

「はい。あの、でも・・・本当にそんなことできるんですか?」

「もちろんですよ、ここはそういう店なのですから。ただし、あなたは仕事を依頼されたわけですから、もちろんこちらも相応の報酬をいただかなくてはなりません」

「報酬って、お幾らくらいになるんでしょうか」

「別にお金でなくてもよろしいのですよ。こちらがお渡しするものと同等のものであればなんでも報酬になるのです。ある方からは恋人の形見、思い出の詰まった写真。もちろんお金をお支払いする方もいらっしゃいますがね。あぁ、『命』なんてそんな恐ろしいものはいただけませんのであしからず」


「・・・・・私は、何を支払っていいか・・」

「そうですね・・では、こちらで決めさせていただいてもよろしいでしょうか?」

「・・・はい、それでお願いします」





「それでは、貴方に記憶をお渡ししましょう」




























「どういたしました?先ほどから10分、もう泣き通しですよ」

「だ、て・・・・美和・・美、和がっ・・」










「可哀想に、御友人を失った記憶まで取り戻してしまったのですね・・。お客様の幸福な時間、確かに買い取らせていただきました。またの御来店をお待ちしております」








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