%短編:侵された体%
そう。
私はちっとも知らなかった。
世界がこんなに広いなんて。
世界がこんなに素敵だなんて。
自分が、
実は、産まれていなかったんだなんて。
ずっと暗闇に閉じ込められていた私には、
何もかもが新鮮な、生の空気だ。
ブルル、と携帯が振動して、先輩からのメールが届いた。
『明日の朝は練習休みだってさ。
でもいつも通り、迎えに行くから』
ハートマークをあちこち散らしたメールを先輩に返信して、
携帯を閉じた。
『やっぱり、双子って、好きになる人も似てるのかな』
自分の頭に向かって、話しかけてみる。