女心と秋の空〜ツンデレ彼女の涙の秘密〜
数学の教科書を顔の前に広げ、横目で雪村を覗いてみる。
肩までかかるストレートの髪が、開いた窓から流れ込む風に揺れている。
時折顔を覗かせるんだけど。
ほら……また、涙目。
右手で口元を覆い隠して外を眺め、まったく授業を聞いていない様子。
と言うか、さっきのことなんて我関せず?
まぁ、そのほうが都合がいいんだけどさ。
「じゃあこの問題を雨原。前に出て解いてみろ」
はっ?
オレですか?
何だ、これ。
xとかyとか、暗号……か?
数学苦手なくせに授業聞いてなかったオレが悪いけど。
黒板の前でチョークを持ったまま固まる。
「……分かりません」
「ったく、よそ見ばっかりするからだぞ〜。じゃあ……雪村、代わりに解いてみろ」
その瞬間、ドクンと心臓が跳ね上がった。
「はい」
さっきまでまったく授業聞いてなかったっぽいのに、大丈夫なのか?
席に戻るオレと、前に出ていく雪村。
だるそうに歩いてくる彼女とすれ違う瞬間、オレの動揺が気づかれないように、呼吸を整えながら平静を装った。
ゴクリと唾を飲む。
さっきのこともあり、クラスメイトの視線も気になる。
はぁ……。
たった数メートルの距離がこんなにも長く感じるなんて初めてだ。
「よし、正解。席に戻れ」
オレの心配をよそに、雪村はいともたやすく問題を解いたらしい。
なんか、今日のオレかっこ悪くねー?
はぁ。だっせー。