先生と王子様と演劇部な私。
 離れようとしてジタバタしてみるけど、先生は離す気配もなく、挙げ句には、動くな、と一喝されてしまった。


「目を閉じないで、ちゃんと客席を見るんだ」


 言われた通りにおずおずと先生の腕の間から客席を眺める。

 顔を横に向けたら、トクントクンという先生の心臓の音が聞こえた。


 トクン、トクン、トクン……。


 その音を聴きながら、暫く見ていたら心地よくさえなってくる。


「少し、気が和らいできたかも……」


「そうか。それは良かった」


 ほんのり朗先生の匂いがした。何かの香水? 段々と落ち着いてくるのが分かる。
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