先生と王子様と演劇部な私。
 中央に立った朗先生は、空に伸ばした手を胸の前に引いて拳を握る。


 そして切なげな表情で歩きまわり、窓に寄って跪く(ひざまずく)と、天に向かって、あの名前も知らない君に逢わせて欲しいと願う。



 ――王子様がシンデレラを探しているときのシーンだ。



 このシーンは……。



「柚子が、素敵だと言ってくれたシーンだ」


 立ち止まった朗先生が、私に向かって歩いてきた。



「シンデレラを探す姿が、切なくて素敵でした」


 私が五年前に伝えた感想を再度口にすると、朗先生は左手を後ろ、右手を前にして、ありがとうございます、とあの時と同じようにお辞儀をした。


 そう、あの時とまったく同じように。


「……私と会ったこと、覚えててくれたんですね」


 声が少し掠れそうだった。まさか、こんなにもハッキリと覚えてくれてたなんて……。


「もちろんだ」
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