先生と王子様と演劇部な私。
「先に車に戻っとけ」

 食べ終わると、朗先生は私に鍵を預けレジに向かった。一応少しは払おうかと思って声をかけたが無言で睨まれる。怖い……。素直にお礼を言っておくだけにした。




 中に乗り込んで待っていると、先生が車に戻ってくる。ドアを開ける姿、乗り込む姿、ハンドルに触れる姿。行動の全てが様になっていて、少し見惚れてしまった。



「また、シートベルト締めて欲しいのか?」


 席に座った朗先生は自分のシートベルトを引く手を止め、少し身を乗り出しながら覗いてくる。

「わっ、車なんて乗りなれてなくて……」

 私は慌てて先生から視線を外し、シートベルトを締めた。


「遠慮しなくていいんだぞ」

 朗先生がニヤリと笑う。何か反応見て楽しんでるみたいで、ちょっと悔しい。


「さて……柚子んちってどこだ?」

 そんな私の気持ちなんかもちろん知らず、先生は車を発進させた。
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