ドロイド進化論


「おやつの時間です」

──やっぱり、開けなきゃ良かった。


 大真面目な顔をして何を言うかと思えば、子どものような台詞が出てきたことに葛城は苛立ちを覚えたが、飲み込むようにそっと目をつむった。


「ごめんなさい、サユミさん」

 葛城が口を開く前に謝罪をした来栖を見ると、丁寧に頭を下げているのがわかり、己の癖に気付く。


 腹立たしい気持ちを抱えつつも何だか怒るタイミングを見失った彼女は、来栖に頭を上げるように言った。

 どうもそれだけでは怒りが収まったことを示すには足りなかったようなので、『おやつの時間』とやらをとることにする。


 準備のためか一旦部屋から出た来栖の後ろ姿を見ながら、葛城は小さく息を吐いた。


──誰が『おやつの時間』なんて教えたのかしら……

 きっとメンテ作業員の誰かだろう。
初期のサイバノイドは特に生真面目で、まさに融通のきかないロボットなのだ。ちょっとした会話からも知識を蓄積する。


 程無くして、葛城の心をほぐすかのように、ほのかに香る紅茶と可愛らしいクッキーが目の前に置かれた。


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