Escape ~殺人犯と私~
1…
「寒い……」
震える声で私が呟くと
まるでギブスのように、白いマフラーで首を固めた彼氏が
気だるそうに言った。
「早く歩け」
機嫌の悪い彼氏に急かされて
私の速度が早まる。
私はカレシとラブホテルに行くために
朝早くから学校をサボって、渋谷に来ていた。
淡々と歩き続けている彼氏は
私の手を引く訳でも肩を抱く訳でもなく
ホテル街のある道玄坂へと向かう。
ここでもし、私が歩く速度を緩めても
彼氏は私に気付かないで進み続けると思う。
こんな超無関心な態度を見せられたら
一般の女子なら付き合う理由を見失うだろう。
でも、この態度に慣れてしまった私は
別れる理由を見失っていた。
人の行き交う雑踏の中
心に「すきま風」を感じながら
少しだけ、歩く速度を緩めた。
シャリシャリ。と、雪の踏む音を聞く。
都心に積もった白雪は美しい。
でも、幾度となく踏みつけられて
美しかったはずの氷は時間が経つにつれ
まるで私の体みたいに薄汚れていく。
汚れた泥水が
私が中学の頃から履き古してるローファ