新月の夜
だってテレビ見たら私の妊娠と、悠のお父さんの声だけの会見の模様が流れてて、今、外に出たら…。」
「麻友はイヤ?」
「嬉しいよ。お兄ちゃんだよ。」
「じゃあ決まり☆悪阻きたらお兄ちゃんが守ってやる。彼氏じゃないとダメ?」
「わかった。家の前で待ってるね。」
「ごめんな、我が儘だな。」
「いいよ、お兄ちゃんが誘ってくれるなんて嬉しい。お兄ちゃん大好きだよ。」

切る。兄は嬉しいようだ。悠太の母は、

「ふふふ、顔が緩んでる。そういや坂井君は、女の人を抱いた事あるの?」
「…ないことはないです。麻友も知ってる人。麻友とは小学校の集団登校でいいお姉さんがわりしてた人。あいつにとって私はただの遊び。ただ処女を捨てたかっただけ。わかったのは抱いた後。17でまだなんて恥ずかしいでしょ?気持ち良かった。ありがとう。自惚れないで?一度寝たくらいで好きにならないから。よかったでしょ?いい思い出。服を着ている途中のあいつにそう言われました。私は好きでした。」
「ひどい女ね。」
「必死に忘れる事だけ考えて、でもそう簡単に忘れられる事なんてありません。夢で度々見るあの時の残像。兄弟にも打ち明けられない女です。この前、同窓会で再会した時に、私の職場を聞いて目の色変えて求愛されました。承諾するなんて有り得ません、金目当てですよ。それにあいつの目的はCMを見て、男メンバーの誰かに会いたいから。見抜いています。それくらい。あんな女もうゴメンだ。」
「拒絶して正解ね。聞いた限りではその女は坂井君をモノとしか見ていない。」
「そうです。吹っ切れています。今は妹や弟の幸せを願っています。私はそれからでいいです。家の事、両親の事は私に任せておいて、安心して幸せになって欲しいです。いくら妹が弟に対して特別な対応をしていると注意してても。それは二人を思っています。兄として。」
「優しい人ね。奈央は優しい人を見抜くのね。癒したくて甘えて。」


麻友美の家、玄関前には麻友美と、麻友美に優しく手を差し延べている母がいる。

「母さん…。」

車の中からでもわかる。着いて、兄は降りる。

「母さん、何で?」
「妊婦さん一人で待たせたら何かあったらどうするの?ましては追われる身。襲われでもしたらどうするの?麻友美は私の娘。ママはどうなってもいいから守らないといけないわ
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