新月の夜
おかしいの。」
「…兄さん帰って来たの?」
「うん。」
「何でだろうねぇ。お兄ちゃんもわからないんだ。部屋でおとなしくしてなさい。後でお兄ちゃんと遊ぼうか。うん。」


あつきは母に、

「亜希兄さんおかしい。何でだろう?母さん、兄さんから聞いた?」
「亜希からは聞いてないわ。でも、噂を聞いた。隣町の桐谷さんのお子さんが亡くなったらしくて、亜希の学年だし。高校も同じでしょ?やはり中学も高校も同じだとショックでしょ?」
「…え!?」
「母さん。まさか、その人の名前、桐谷万里って?」
「確か。女の子だよね。…何であつき知ってるの?1学年上だからわかるか。」
「…兄さん。」
「亜希が何か?」
「…母さん、誰にも言わない自信ある?」
「まぁ、内緒話なら。」

あつきは母に、

「兄さんの彼女だよ…。」
「へ?」
「二人、できているよ。兄さん、大事な彼女を失って、こもってる。」
「…亜希から聞いていたの?」
「…いや、兄さんは隠してるよ。僕に言うとちょっかい出されるからでしょ。…中1の頃見たんだ。学校のベンチで、いちゃついてる姿を。膝に乗せて、キュッと抱いてた。」
「うそよ。亜希は絢美を溺愛してる。」
「…見たんだ。大好きと。見つめ合っていた。兄さんは愛しい人を見る目。彼女も、兄さんの前が一番いい笑顔だった。」

母は、「キス…したの?」
「してないんじゃないかな。抱き合うくらいで。僕は気になって、後日、素性を隠して兄さんの学年の人に、あの女の人の名前は何ですか?と聞いた。すると、あぁ、”桐谷万里”ね。好きなの?ダメよ。あのコ恋人いるから。牧野亜希。…いつから恋人になったのかなぁ。去年の体育祭、怪我した万里をお姫様抱っこして、保健室運んだ。その時は普通に怪我人運んだだけって言ってたし。女子からはきゃ〜きゃ〜よ。かっこよかったもの。そういえば、その後亜希君が帰って来た時。顔真っ赤で。男子にちやほやされて。更に赤くなって。意識し始めたのかな。万里は、それから、亜希君を守るようになった。男子からも女子からも。…万里から告白したのかも知れない。二人きりの保健室で。」
「…。」
「万里って大胆よね。」
「…キスしてるんですか?」
「万里は、大人なってからのお楽しみ。きれいなままあげたいなって。」
「…ありがとうございま
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