足音さえ消えてゆく
「ちょ・・。違うんだけど」

「でも、いい男すぎない?モテそうだし、私なら心配だけど。でも、カナが玄関に入るまで悲しそうな顔で見ていたから、きっとカナのこと本当に好きなんだなーって・・・」
言い終わるか終わらないうちに、
「うぇっ」
とカエルのつぶれたような音が聞こえた。

 誰が発したかは分かっている。上目遣いでそちらを見ると、父がボタボタと涙を流していた。

「あ・・・あのお父さん?違うの、全然違うの」

「カナが・・・カナまでがお父さんから離れてしまうのか・・・」

「だから違うって」

「はぁ、父親なんてそんなもんだよな・・ウグ・・・あんなに小さかったカナが・・・ヒック・・・」

 魂が抜けるかと思うほどのため息が出る。
 母は、そんな父にティッシュを差し出すと、
「本当ね・・・でも、カナ、大学生は年上すぎじゃない?」
と非難するような目を向けてくる。

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