足音さえ消えてゆく
 それは終礼の時に起こった。

 
 いつものように最後の授業が終わると、井上が終礼をする。終礼といっても、連絡事項を伝えるくらいのものだが、その日の内容はいつもとはかなり変わっていた。

 井上が教壇に立ち、教室内をぐるっと見回す。

 授業が終わったということで、教室内にはホッとした雰囲気とともにクラスメイトの雑談が響いている。


 カララララ

 音をたてて教室のドアが開く。誰かトイレでも行ってたのかな、と入り口をみた私は違和感を感じて目を見張った。

 音楽の先生の岩崎が、頭を下げて教室に入ってきたからだ。

 とたんに嗅いでもいない香水の臭いがしたような気がして、眉をひそめる。

 岩崎は、そのまま井上の横にくると並んで立ち、同じように教室を見渡した。








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