足音さえ消えてゆく
 私はまたあの香水を思い出し眉をひそめながら、
「そうかもしれない。岩崎先生は、私にはないものを持っているんだもん。それは大人である、ってことだと思う。私がいくら井上先生を好きでも、私はまだ大人じゃないから彼女には、かなわないもんね。だから、嫌いだった。でも、どこかでうらやましかったのかもしれない」
と一気に言った。

「おまえって」優斗はため息まじりに続ける。
「ほんと、たまにすっごく大人に見えるよ。俺が井上なら、絶対お前を選ぶぞ」

「なにそれ」
思わずふきだす。つられて菜穂も笑っている。

「一応、はげましたつもり」
優斗が照れくさそうに、そして半分すねたように言う。

「はは、どうもありがと。でも、なんかスッキリしたー。ごめんね、つき合わせちゃって」
ヒョイと椅子から立ち上がると、私は帰り支度をはじめた。2人はとっくに準備ができていたからだ。

「青春終わり~」
そう言って、私たちはライトを消して教室を後にした。



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