足音さえ消えてゆく
 部屋の電気をつけると、そのままベッドに倒れこむ。うつぶせのまま枕を手だけでひきよせ頬をのせる。

 
 井上と結ばれる可能性なんてない、とはじめから分かっていた。

 恋ではなく、ただのあこがれだと思っていた。

 それでも・・・それでも心のどこかで『もしかしたら』って思っていたのかも知れない。だからこそ、岩崎のことが嫌いだったのかもしれない。

「これが失恋っていうのかな」
ひとりつぶやいてみる。

 それは違うよ、ともうひとりの自分が言っているような気がする。そう、これは違う。大好きな人が離れてゆくさみしさだ。現に涙はでないし、ショックながらも受け入れている自分がいる。

 ぼんやりと仰向けになり天井を見上げた。

 まぶしい光に目を閉じる。

 菜穂や優斗に心配かけちゃったな・・・。明日は元気にがんばろ。

 そんなことを考えているうちに、私は眠りに落ちてゆく。


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