足音さえ消えてゆく
 恵美を見ると、目線をそらしてとぼけた顔をしている。

 私は、不自然に見えないように「うん」と言ってから、
「体育が持久走だったからおなかすいちゃって」
と肩をすくめた。

「そう、でもなるべく一緒にご飯食べたいな」

「ごめんね、気をつけまーす」

 母は恵美からお弁当を受け取ると、
「じゃ、行ってくるね」
とあわただしく出て行った。

 両親は学校の教師だ。父は隣の市の公立中学校で、母は同じ市の公立高校。2人とも朝は早く、夕食くらいしか顔を合わせない。特に母は、高校3年生を担当していて受験シーズンの今は大変そうだ。

 ご飯をおかわりまでして食べた私は、いつもより遅い時間に家を出た。

 小走りで商店街を抜け、駅へと急ぐ。

 改札を抜けるころには遅れを取り戻し、息を整えながらホームへと続く階段をあがってゆく。


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