足音さえ消えてゆく
「ねぇ、昨日さ休んだでしょ?風邪?」
できるかぎり優しい声で尋ねてみる。

「・・・まぁ、な」

「ウソだね、あんたってほんとウソが下手」
間髪いれずにそう言うと、少なからず動揺したのか、
「うるせー、ブス」
と、優斗は目をそらした。

 乗り降りする人の持つカサで濡れないよう、身体をなるべく小さくすぼめながら、私は優斗を改めて見つめる。
 
 今日の優斗は何か変だ。

 憎まれ口はいつものことだが、なんだか元気がないように見える。

 本当に風邪をひいたのか、それとも・・・。

「あのさ、昨日も今日も・・・涼子さん見てないんだよね。まさか涼子さんも昨日学校休んだ・・・とか?」

 そう私が口にした瞬間、私は優斗がピクッと反応するのを見逃さなかった。自分でも動揺してしまったのがバレたと思ったのか、優斗は頭をボリボリかきながら、
「アネキ・・・いないんだよ」
と、まるでつぶやくように言った。


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