足音さえ消えてゆく
「は?いないってどういうこと?」
思わず、狭い車内で優斗に詰め寄る。優斗は、顔をうしろにそらしながら、
「しらねーよ、いないもんはいないんだよ」
と怒ったように言い放った。

 涼子がいない?それってどういうこと?

 頭の中が高速回転でうずまく。

「ねぇ、ちゃんと話してよ。私、これでも涼子さんのことあこがれてるし、全然知らない仲じゃないんだからね」

 優斗は、そらした姿勢のまま私を見下ろしていたが、やがて肩で大きく息をはくと、
「おとついの夜さ、夜ご飯になっても来ないから母親が部屋に見にいったら、いなくなってたんだよ。それから今日までなんの連絡もない」
と、観念したように言った。

「それってさ、誘拐とか?」

「いや、ちがう。書置きっていうのか、手紙が置いてあったから」

 頭の中に、まだ見たことがないにもかかわらず、部屋にポツンと置かれた手紙の映像が浮かぶ。


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