足音さえ消えてゆく
 あれは、いったいどういう意味だったのだろうか。

 ぼんやりと考えていたが、結局私は携帯を閉じカバンにしまった。今ここで悩んでいても仕方ない。もう少しあとで優斗にいろいろ聞いてみよう。


「雨、ひどいね」

 気づけば菜穂がそばに来て、窓から見える灰色の世界を見ながら言った。
 優斗は他の友だちとじゃれている。

「帰るまでに止むのかな」
考え事を打ち切るように、私も答える。

「どうだろうね。でも、どうせ降るなら雪がいいのに」
首をかしげるようなしぐさで言う菜穂はとてもかわいい。

「ここじゃ雪はむりっしょ。最後に見たのがいつかさえ覚えていないもん」

「4年くらい前じゃなかった、雪降ったの」

「そんな昔のこと、忘れた」
机に1時間目の教科書を出しながら私は言う。

「はは、年寄りみたい」

こうして教室の中にいても、雨音はリアルに耳に届いた。
そして、私の頭の中には何度振り払っても、涼子のあの笑顔がいつまでも浮かび続けた。


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