足音さえ消えてゆく
「アネキのこと、誰にも言うなよ」

 そう優斗が耳元でつぶやいたのは放課後のホームルームの時間だった。

 私は目線を教壇に向けたまま、短くうなずいた。

 それを理解したのか、優斗は帰りのあいさつの後口笛を吹きながら教室を出て行こうとした。カバンをそのままに優斗を追いかける。

「あのさっ」
右肩に手を置く私に、驚いたように振り向いた優斗を、廊下の端にまで引っ張っていってから私は言った。
「誰にも言わないけどさ、あんた、それでいいの?」

「なにがだよ」
周りの視線を気にしながら優斗は眉をしかめて言う。

 私も、周りに目を配りながら自然に小声になる。

「だから、涼子さんのこと。ほっておいていいの?心配じゃないの?」

「しかたねーだろ」

「しかたなくない!」
思わず大声になり私はあせったが、放課後のにぎやかさの中、誰も私たちを気にとめている人はいなかった。


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