足音さえ消えてゆく
「いや、もうなんて謝っていいのか・・・」

 洗面所に行き、前よりも大きくなった染みを洗って出てくると、小浜は土下座でもしそうな勢いで謝ってきた。


「いや、こうなる予感はあったから気にしないで」

「めんぼくない!」

 深々と頭を下げる小浜を見ていると、彼が涼子を好きなのがよく分かった。


「いつから涼子さんのこと好きなの?」

「いや、それは、その・・・」

「コーヒーの染みって落ちにくいらしいんですけど?」

 そう意地悪く言うと、小浜も観念したのか、
「はい・・・電車で見かけるようになった時、いや・・・初めて見た時からかもしれないです」
と素直に話し出す。

「涼子さんには伝えてはいないの?」

「ん・・・伝わっていると思うんだけど、拒否されてるかんじ」

「もう少し分かりやすく言ってくれない?」

「あ、すみません」

 これではどっちが年上なのか分からない。

< 96 / 258 >

この作品をシェア

pagetop