治癒術師さんに取り憑いた魔導師さん



* * *



何も、ない。

悪夢から覚めたような安堵感。

夢から覚めたような意識の混濁。


荒れた大地。何もなくて、怖いものなど一つもない。


――それでもその子は泣いていた。


温かいものから離れて、黒くて丸くなったものに近づく。


意識がおかしい。
ぼう、としてきちんと、あれ、何だったかな。


分からない。何がしたかったか忘れそうになるけど。


泣き声が、私にある昔を思い出させる。


墓碑と女の子。


名前……、ああ、頭が回らない。


ただ泣かれるのは痛かった。


黒くて丸いものに近づけば――それは不格好な黒人形だったと気づく。


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