治癒術師さんに取り憑いた魔導師さん
「俺の優しさは彼女にしかない。なんなら、今すぐにでもあなたの頭を踏みつぶすが、時間がもったいない。早く彼女を起こさなければ……忘れられてしまうかもしれないからね」
ガラスケースに彼が触れる。いや、薄い膜だったか、触った部分から溶けるように半透明の膜は消えた。
膝をつき、姫を讃える騎士のように彼は彼女を見る。
手を伸ばし、抱きしめた。冷たくなった体を温めようとして。
「俺には、君だけでいい」
彼の存在表明、でも彼は知っていた。
ユリウスは俺だけではない、と。
ユリウスには、俺以外にも必要なものがあると。
悲しい事実、でもいい。
「俺はこうして、君を独占できる」
動かない体を触りに触る。誰からも咎められやしない、自分だけが許される行為だと。