治癒術師さんに取り憑いた魔導師さん
無理だった。
「声かけないで下さいっ。あと、なにキスしようとしてんですかっ」
近づく顔を自分の手で止めるのが唯一の抵抗だ。
本当ならば、家から追い出したいというのに。
「あれまあ、シルちゃんもいたんかい」
「すみません、挨拶なしで。俺が“出る”とユリウス、恥ずかしがるんですよ。いつでもいます。だって俺、ユリウスの半径二メートル以内でしか行動出来ないんですから」
密接な関係なんです、と後ろから抱きつく男を突き放す。
力を込めてこちらは押したつもりでも、二歩ほど下がった程度で――見えない壁にぶつかったように不自然な止まりかたをする長身。
「恥ずかしがらなくていいのに」
「純粋に嫌だと言っているんです」
「素直じゃないなぁ。まあ、どうせ俺たちは一生一緒なんだから“今だけ”は我慢するよ」