治癒術師さんに取り憑いた魔導師さん


無理だった。


「声かけないで下さいっ。あと、なにキスしようとしてんですかっ」


近づく顔を自分の手で止めるのが唯一の抵抗だ。


本当ならば、家から追い出したいというのに。


「あれまあ、シルちゃんもいたんかい」


「すみません、挨拶なしで。俺が“出る”とユリウス、恥ずかしがるんですよ。いつでもいます。だって俺、ユリウスの半径二メートル以内でしか行動出来ないんですから」


密接な関係なんです、と後ろから抱きつく男を突き放す。


力を込めてこちらは押したつもりでも、二歩ほど下がった程度で――見えない壁にぶつかったように不自然な止まりかたをする長身。


「恥ずかしがらなくていいのに」


「純粋に嫌だと言っているんです」


「素直じゃないなぁ。まあ、どうせ俺たちは一生一緒なんだから“今だけ”は我慢するよ」


< 7 / 411 >

この作品をシェア

pagetop