secret garden
そして、
「もう帰りなさい」
とだけ言う。ぼくは小さくお辞儀をして教室に戻る。そして、ランドセルを背負って家に帰る。
家に着くと、ママが待ちかまえていて、ぼくを捕まえる。今日はピアノ教室の日。
「さぁ、早く準備をして行くわよ」
ママがぼくをせかす。ぼくはママの機嫌が悪くなる前にいそいで楽譜をカバンにつっこんで玄関に向かう。
ママはもう赤いハイヒールをカツカツ言わせながらぼくを待っている。
ぼくが靴をはくとママの赤い車で隣町のピアノ教室まで行く。
ぼくのピアノ教室の先生は太っていて、声の大きな女の先生。ママの友達で、一緒にコンクールに出たことがあるらしい。
先生はいつもママに、
「マユミが自分で教えればいいじゃない。あたしよりもピアノ、巧いんだから」
と言う。ぼくはママのピアノを一度も聞いたことがない。いつもママは、
「パパが疲れているから」
と言ってピアノを弾くことはなかった。
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