神への挑戦

忙しなく行きかう人の流れや、道路を走る車やバイク。目の前に広がる現実世界の光景が、ハヤトの眼には新鮮に見えてしまう…。

常日頃、マスターと言う名の仕事を抱えながら生きているハヤトにとって、この様な時間は今まで皆無と言って良いぐらいなかった。

人一人見るのでも、その人物の特徴や、性格などを考えて見てしまう。だが今のハヤトは、何の柵も感じずに目の前の光景に目を向けていた…。

（俺がガキの頃も、こんな感じだったかのか…あんま覚えてないんだよな）

一人夜の街を徘徊していたハヤトは、口には出さないが、心の中で独り言をしながら、歩き回り、そして一軒の店の前で足を止めた…。

そこは、都会の明るい雰囲気とはかけ離れた様子を見せているシックな佇まいのバーだった。ハヤトは、何かに引き込まれる様に、その店の扉を開くと、中の様子をうかがう。

店の中は、８０年代ぐらいの洋楽が流れており、壁にも所狭しと海外のロックスターのポスターが飾ってあり、店の奥には年代を感じさせる様な、ジュークボックスが置いてある。

ハヤト自身は、洋楽の知識は皆無だったが、どこか懐かしさを感じさせる洋楽の魅力に、耳を奪われながら、店の入り口で一人たたずんでいた…。

すると、そんなハヤトの様子を見かねた店の店員が、ハヤトに声をかけた…。

「いらっしゃいませっ。お一人ですか？」

その店員は、店の雰囲気とは違い、非常に年が若く、どう見ても２０代前半の女性だった。ハヤトは、そんな店員に、軽く頷くと、店のドアを閉じ、中に入って行く。

そして、カウンターの席に腰かけると、店員がすかさずおしぼりをハヤトに差し出し、注文を聞く。するとハヤトは、店員にビールを注文し、静かに店内に流れる音楽に耳を傾けた…。