神への挑戦

すると、少しの時間も経たずにハヤトの目の前には、ビールとお通しなのか、スナック菓子が目の前に置かれ、女性の店員が、カウンター越しにハヤトに話しかけてきた。

「お待たせしました。この店、始めてですよね？」

「えぇ。何か目について、入ってみたんですよ」

ハヤトは、目の前のビールを手に取ると、勢いよく喉に通した。久しぶりに口にしたビールは、頭の中に入ったんじゃないかというぐらい、今までため込んでいたフラストレーションを吹き飛ばし、頭をスッキリさせた。

「そうですかっ。私はこの店のマスターのミサキです。よろしくね」

「マスター？店員さんじゃなくて？」

ハヤトは、目の前に居るかなり若い女性に驚いた様子で話しかける。

「そうですよ。店員は私一人なんで、私がマスターになりますね。昔は父と二人で切り盛りしてたんだけど、父が死んでからは、一人でやってるの」

「そうなんですか…大変ですね」

ハヤトが返し言葉の様にそう答えると、ミサキは笑顔を返し、首を横に振る。

「そうでもないですよ。人と話すのは好きだし、この店に来るお客さんは、昔の洋楽が好きな人ばかりだから話が合うのよ。お客さんは、洋楽とか聞く？」

「俺は聞かないですね。音楽自体あまり聞かないんで…でも、この店の音楽は何故か耳に残りますね」

ハヤトは、英語などは何も解らないのだが、なぜかこの洋楽は耳に残って離れなかった。ハードロックな曲調で、何かを訴えかける様なこの音楽が、ハヤトの意識を刺激していた。

「へぇ…この音楽は、７０年代に全米で大ヒットしたアルバムよ。未だに熱狂的なファンが多く居て、私もその一人かな。この人達の音楽を聞くと、何故か嫌な事を忘れさせてくれるのよね」

「それは俺も解ります。心の中に直接浸透するって言うか、普遍的って言うか…大衆受けする感じの曲ではないですけど、嫌な事を吹き飛ばすエネルギーみたいなものを感じる」

久し振りの酒の力もあってか、ハヤトは饒舌に曲の感想を言いいだした。そんなハヤトの様子を、ミサキさんは静かに頷きながら聞いている。