神への挑戦
後ろで残念がっている銀次を眺めながら、嬉しそうにそう呟くエース。

「なんだそのニヤけた面は。人の不幸を笑うんじゃねぇよ」

「自分の不注意でしょ。不幸ってほどの事じゃないじゃない…てかそのヒサジ君は、ジャッジタウンの住人だったんでしょ?どんな子だったの?」

今から不良の巣窟に殴り込みに行こうと言うのに、この二人は世間話に花を咲かせていた。

「そうだな…ヒサジは俺が見つけてきた男なんだが、子供じゃ背負いきれないぐらい重い十字架を背負った男だった。俺が初めて会ったのは、アイツが13歳の頃だったんだが、正直アイツの過去を始めて聞いた時、人生ってやつは不公平なもんだと思ったぜ」

銀次は当時の事を思い出しながら話をしていた。銀次もヒサジと会った時はまだ若い20代前半の頃。

若かった当時の自分の事も思い出しつつ話を続ける。

ヒサジの生い立ちや、目の前で起きた凄惨な事件。どの話も中学生になったばかりの少年には辛い過去だった…。

「アイツは本当に心が強い男だ。俺やお前よりもずっと強い…俺等は一度目の前の現実から逃げてしまったからな」

決して弱さを見せない男が見せた一瞬の弱さ。この時の銀次は、普段の覇気が消えていた。

消えたと言うよりも、消したと言った方が適切かもしれない。普段の高圧的な態度を消し、銀次らしからぬ『普通』な雰囲気だった。

「確かに俺達は逃げた。色々理由をつけてな…でも俺はあの時の選択を間違っていたとは思わないがな」

そんな銀次とは逆にエースは、高圧的な雰囲気で話しだす。

「あの時逃げずに立ち向かっていれば、俺達は間違いなく消されていた。そして、睡蓮会は今も間違いなく存在していたはずだ…今もこうして睡蓮会の事を調べる事すら出来なかったはずなんだよ。俺はあの時の判断を、間違っていたとは思っていないよ銀次…」

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