神への挑戦
ジャックの警察官という言葉に、エースは首を横に振ると、説明を始めた。

「マスターには、二種類あるんだけど、どちらも警察官とは全然違う存在だよ。マスターとはこの町の法律そのものなんだ。彼等がイエスと言えば、全てが許されるし、ノーと言えば、断罪される…簡単に言えば、独裁者ってことだね」

独裁者…有名どころを言えば、ドイツのアドルフ・ヒトラーがそうだ。一部の人間による、権力の集中が原因で、偏った政策が実行される事だ。

「でも、このマスターという立場は裏を返せばかなりの重圧が圧し掛かる仕事だとも言える。町の治安の悪化を防ぎつつ、彼等の思想を壊さない程度のゆとりを作らないといけないからね…要はカリスマ性が必要とされるのさ」

車で走っている最中なので、あの後何が起きたのかは解らないが、この町ではケンカは日常茶飯事であり、あの光景はいつもの光景であるとエースは言葉を続けた。

ジャックは、自分の知っている常識が通用しないこの町に、かなりの違和感を感じつつも、自分とは関係ないと割り切り、話を完結させていた。

車は市街地を走り、中心地の様な場所に到達した。その場所には、これまた大きなゲートがあり、関係ない人間の侵入の一切を許さないと言わんばかりの、厳重な警備態勢がしかれている場所だった。

「なんじゃこりゃ……すげぇな」

目の前の光景に思わず声が詰まるジャック。エースは、ジャッジタウンに来てから驚きっぱなしのジャックを見て、何やら楽しみだしていた。

「これは、国連加盟国である本国が国家をあげて作りあげた、対ミサイル用の防御システムの一つで、いかなる兵器をもってしても、この要塞を壊す事は出来ないのである」

「ふむふむ…」

「この設備は近い未来に必ず起きるであろう、第3次世界大戦における、核被害を最大限に押さえる為の、放射能粉塵除去システムに初めて成功した設備であり、本国が世界に誇れる最新の設備なのだ」

エースがスラスラとありもしない事を言い続け、ジャックがそれに対し、真剣に耳を傾けて話を聞いている。そしてその様子をバックミラー越しに見ていた運転手が、必死に笑いをこらえているのを、エースだけが気付いていた。
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