神への挑戦
「くっ…俺は……」

ハヤトは不思議と、ジンの言葉がすんなりと頭に入っていた。決して冷静では無い…だが、この危機的状況がハヤトの中の潜在意識が必死に正気を保とうとしていたのだ。

確かに今の攻防を見る限り、相手も拳銃を抜こうとしていたのは間違いない。そして拳銃を抜いたからには、ハヤト達に向け発砲するのは目に見えていた。

ジンの行動はこの場だけで考えれば、間違いなく正論になってしまうのだ。

でもハヤトは、ジンの様に迷わず拳銃を発砲する事が出来ない。それは今まで生きてきた過程での先入観が邪魔をしているのだ。

ヒトヲコロシテハイケナイ…。

ケンカは人を傷つける事はあっても、殺害する事はまずない。それは経験による肉体の限度を知っているからだ。でも拳銃などの殺傷能力が極めて高い代物を扱うとなると、急所を外したとしても、大ケガは間違いない。

ハヤトは、自分が持っている代物の恐ろしさを改めて実感した。

「俺の見込み違いかな。ハヤトもそこいらに居る坊ちゃんと一緒なんだな…」

「なに…?」

ジンは前を向き、ハヤトから自然を外すとぽつりと言葉を吐いた。

「ハヤトは俺に近い男だと思っていた…ジャッジタウンの中でも俺は、ハヤトを一番勝っていたんだよ。こんな平和ボケした国にもこんな男が居たんだと思うと何か嬉しかった」

本心なのかハヤトの気持ちを落ち着かせるためなのかは解らないが、ジンはそう口にした。

「俺は一人でも行くよ…ハヤトは戻るか来るかは自分で決めなよ。今ならまだ逃げる事は可能かもしれないから」

ジンはそう答えると、死体の血を避ける様にして通路を走って行った。ハヤトは未だに決断をしかねており、足が前に進もうとしていない。

俺は…どうしたい。

ワカラナイ…。

俺はここに何しにきた?

今この場でしてはいけない事は立ち止まる事。ハヤトはあまりにも無防備な状態で、その場で放心していた…。
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