神への挑戦
ドラゴンは肺に溜めていたタバコの煙を吐き出し、ビルの方に視線を向けながらそう話す。

「ヒサジ…お前はハヤトの安らげる『居場所』になってやれ。心の通ったダチってのは、家族以外にそれが出来るたった一つの存在だ。それは、お前やマリコちゃんぐらいしか出来ない事なんだしよ…」

ヒサジはドラゴンの言葉を無心で聞いていた。ハヤトの事をドラゴンや銀次に任す…。

それは他の誰に頼むよりも心強い存在だった。だがマリコのあの心配な表情を思い出すと、どうにも腑に落ちない…。

五感以外の何かによる最悪の予測。それは時に現実のものになる可能性を秘めた神秘の現象なのだ。

「…本当に任せて良いのか?」


ヒサジのこの言葉は、自分にも投げかけている言葉だった。ドラゴン達を信用したい…それはハヤトの事を完全に任せる事。

つまりは、どんな最悪の展開になろうが、ヒサジは文句を言える立場でなくなると言う事だった。

「…あぁ。俺達に任せろ」

ドラゴンは自信を持って返事を返す。それはヒサジの心配な様子を察し、これからの自分の行動に責任を持とうと言う決意の表れでもある。

「解った。俺はハヤトの帰りを待つ事にする…何か解ったら連絡をくれよ」

「おう…それじゃぁな」

「あぁ…」

ヒサジは待つ事を選んだ。そしてドラゴンは任される事を選ぶ。

二人はハヤトの置かれている状況を何も知らない。この世の地獄とも言える神の領域での出来事を知らないのだ…。

ハヤトは何時死んでもおかしくない状況に居る事に…二人はまだ気付いていないのだ。
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