神への挑戦
ジンがハヤトの元を離れ、居なくなってから30秒ほど経過した頃、ハヤトは未だに呆けていた。

目の前には銃撃で顔面が崩壊した死体が三人と、首が明後日の方向に向いている死体が一人居る。しばらく眺める事で目の前の光景には自然と慣れた…。

ハヤトはジンと同じ事が自分に出来るのかを考えていたのだ…。

ハヤトは手に握られている拳銃を見つめる。それなりに重量感のある鉄の塊は、人を殺す事を前提に考えられた代物。

「これで人を撃つと…あぁなるのか」

ハヤトはそう言葉を漏らしながら、拳銃を見つめていると、通路の奥から銃声が聞こえてきた。その音と同じタイミングで自分の左腕に熱い感覚を覚える…。

熱さを感じ、その後に痛みを覚える感覚。それは自分が撃たれた事を意味していた。

「くっ…」

今まで感じた事のない痛み。その痛みは、ぼやけていた頭を覚醒させるには十分な衝撃だった。

ハヤトは急いで前を向き、敵の数を確認すると、物陰に隠れた。

幸いな事に敵は一人だった。衝動的に威嚇で撃ってきたのかは解らないが、敵は油断しているハヤトに一発しか撃ってこなかった。

(傷は…かすっただけか。痛むが腕はしっかりと動くな)

服からは血が滲んでいるが、それほど重症ではない。薄皮一枚を剥がされた程度だ。

右手で拳銃を握り、左手は右手に添える。相手からの死角を作りながら相手の方向に視線を送るハヤトだが、相手の姿は未だに視界に入ってこない。

足音から察するにこちらに近づいているのは解るのだが、距離までは見てみないと断言出来ない。状況的に逃げるにしよ、倒すにしよ、相手の前に一度は姿を現さないといけない位置にハヤトは居た。

相手も拳銃を所持している以上、一撃でも当たれば致命傷になってしまう。動くに動けない状況に置かれたハヤトは、痛む腕を気にする余裕すらなくなった。
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