神への挑戦
かなり戸惑っているその男をよそに、笹井は両肩をがっしり掴み、至近距離で言葉を投げかける。

「矢木がムショ送りになっちまったから、今日からお前がこの組の親父な。矢木の代わりにこの組織をまとめてくれ」

「…えっ?」

突然の二階級特進辞令を受けた男は、笹井の信じられない話に、言葉を失う。

「新しく人選するのもめんどくさいし、それ以上に今はクソ忙しいんだ。だからお前がこの組織をまとめろ。詳しい話は、この男に聞いてくれ」

笹井は後ろに控えていた男にそう話すと、踵を返し、リビングの外に出ようとする。笹井が動き出したのを合図に、取り巻きの男達10人ほどがその後を着いて行く。

途端に静かになったこのリビング内で、厳しい沙汰を受けると覚悟していた男達は、深いため息と、落胆にも似た悲壮感を漂わせていた。

俺達はもう引き返せない場所に居るんだ…。

ここに居た男達全員が、そう感じていた。




「親父…これからどうしますか?」

笹井がマンションの地下に降り、車に乗り込みエンジンをかけた所で、助手席に座っている男がそう言葉をかけた。

「そうだな…ガキ共の始末は椎名の兵隊と本部に居る相馬のところが何とかするだろう。どうせあそこから脱出するのは無理だ。ウナギの仕掛けと一緒で、入る方法はあっても、出る方法は皆無に等しいからな…内通者を抜きに考えればだけどよ」

「そうですね。では俺達は、事件の今回の根回しに行きますか?」

「おう。面倒事は早めに済ました方が良いだろうしな」

運転手は目的地に向け、車を走らせた。ミストの連中が睡蓮会の本部に襲撃を仕掛けている中、睡蓮会の精鋭達は、静かに行動を開始していた。
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