神への挑戦
ヒサジとサヨが居る病院の一室。

そこの集中治療室には、ベッドに寝ているハヤトと、そのハヤトの手を握るマリコの姿があった。

人工呼吸器に繋がれ、点滴を打たれているハヤトの身体。表情は非常に穏やかなものだが、それがかえってハヤトの容体が悪い事を現しているようだった。

そんなハヤトの手を、優しくマッサージでもするかの様に触っているマリコ。時たま歌を口ずさみながら、返事を返せないハヤトに話しかけていた…。

「ハヤト君は、いつ目を覚ましてくれるのかなぁ？明日？明後日？？それとも一週間後？？私は何時まででも待つよ。待つのは得意だからね…」

マリコは何かを忘れるかの様に、ハヤトに話しかけている。

そして自分のハンカチを取り出すと、それを綺麗な水で濡らし、ゆっくりとハヤトの身体を拭き始める。それが終わると、どこからか借りてきたのか、爪切りを取り出し、たいして伸びていないハヤトの爪を、小さく切り始めた…。

「ハヤトって結構綺麗な爪してるね。女の子の爪みたい…ってハヤトの事だから、こんな事言ったら怒っちゃうね。今のは冗談っ。怒らないでね？」

マリコの様子を離れて見ていた看護師が、何とも複雑な様子で見つめている。

「それにしてもハヤト。すぐ戻るって言ったのに、すぐ戻らないんだもん…ウソは何とかの始まりだよ？」

何かがおかしいこの光景。誰が見てもマリコの様子がおかしかった…。

このマリコの様子を見ていれば、ヒサジの言っていた事が良く解る。

この時のマリコは……。

自分の世界に閉じこもっていた。

誰の話も聞こうとしない。そしてそんなマリコを止める言葉が見つからない…。

だからヒサジとサヨは、マリコをハヤトと二人きりにさせたのだ。今はマリコの好きにさせてあげようと考えて。
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