神への挑戦
ヒサジはベンチには腰かけず、二人が座っているベンチの前にしゃがみ込みながら、マリコの眼を見つめ、話出した。

「マリコちゃんの気持ちも俺には解るんだ。俺はマリコちゃんがハヤトをどれだけ心配していたかこの目で見ていたからな。そしてそれは、ハヤトもしっかりと気付いている…アイツは感の鋭い奴だからな」

「うんうん。そうだよマリちゃん…」

ヒサジの話に合わせてサヨが相槌をいれる。マリコはそんな二人に心配をかけていると解りながらも、表情は暗いままだ。

「ハヤトのセリフは確かにマリコちゃんを拒絶するかの様な言葉だった。ハヤトもマリコちゃんが傷つくと解っていて言った確信犯さ…でもその言葉の裏に隠されている真実もマリコちゃんは気付いているんじゃないのか?」

愛情の裏返し。ハヤトの言葉はまさしくそれであった。

拒絶の言葉を言えば、マリコが傷つくのは目に見えている。でも心と体を天秤にかけるとこうせざるおえなかった苦渋の選択。

それに気付いているヒサジ。それにマリコ…。

「解ってるよ。だってハヤトの傷…銃で撃たれた傷なんだよ。ただのケンカじゃない。何か危険な事に巻き込まれているってすぐに解った。それでハヤトは私を遠ざけようとしている…それも解ってる。でもっ!」

「それだけ解っているならそれが答えだよマリコちゃん。それ以上でもそれ以下でもない…難しい様に見えて答えは簡単なんだよ。ハヤトはただマリコちゃんを自分の都合で危険に会わせたくないだけなんだ。なぜならマリコちゃんが大切だから…たとえ自分が嫌われようとも、マリコちゃんの身の安全を第一に考える。それがハヤトの決断なんだ…」

マリコの言葉を遮り、ヒサジは代弁した。ハヤトの気持ちを…自分からは多分語らない真実を。

どうしてもマリコに話したかった。マリコが感じているハヤトの愛情を再確認させるために。

マリコは思い出す…。ハヤトとの思い出を。

ハヤトとマリコ。二人は遠い場所に暮らしており、遠距離恋愛の状態を3年も続けている。でもその遠い距離は、二人の恋愛の妨げになっている様に見えてそうではない。
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