神への挑戦
サラッと言ってのけるあたり銀次の憎めないところだ。普通なら少し遠慮がちに話しそうな内容を、実にあっさりと語る。

「冗談じゃないぜ。俺達は負けたんだ…睡蓮会にもミストにもな。この二つの組織を制するだけの準備も力もなかった俺たちの負けなんだよ」

「納得いかねぇよ。睡蓮会は確かに大きな組織だ。でもこのまま…あの事実を見過ごす事なんて俺にはできねぇよ。銀次さんも少なからず昔から知ってたんだよな?身元不明のガキどもが食い物にされている事を!」

苦痛の表情を浮かべながら話すハヤト。その表情は、大きな声を上げた事で傷が痛んでいての苦悶の表情なのか、睡蓮会が行っている事への憤りに対する苦悩なのか…。

「あぁ…アンダーズチルドレンの存在は知っていた。どんな末路を迎えているのかも想像は出来ていたさ」

銀次は昔から睡蓮会の存在を知っていた人物だ。ならハヤトが見た事実をある程度知っていても不思議ではなかった。

「…らしくないぜ銀次さん。始まったケンカを途中で投げ出すアンタはよ。逃げる何てらしくないっ!」

自分の状況を理解していないのか、ハヤトは声量を張り上げながら銀次に食ってかかった。どうやら本格的に傷が痛んでいるのであろう。

何かに耐えるように苦痛の表情を我慢している様に見える。

「らしくないか…俺は何時だって逃げていたんだけどな。日常の生活から仕事に至るまでよ」

無理をしているハヤトの様子には銀次は気付いていた。だが銀次はハヤトの体の心配を後回しにし、会話を続行した。

何よりも大切な事を伝えようとしているかのように…。

「物事の全てから逃げずに生きる事なんて誰にも出来はしないんだ。個人的な事なら逃げずに立ち向かっても良いかもしれない…でも組織で動く場合はそうはいかない。逃げる選択を誤れば、大切な人を失うことになるかもしれないんだ。今回が良い例じゃないか。一歩間違えばハヤト…お前は死んでいたんだぜ?」

銀次はよく誤解をされる男だ。ジャッジタウンのマスターの中で、リーダー的な役割も担っている銀次が、喧嘩っ早いだけの男なはずがない。
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