神への挑戦
だがこれは、特殊な能力かと言えば、似たような人間はごまんと居る事に気づく。当然これは特殊という面で言えば、首をかしげるかもしれない。

だがもう一つの能力に関して言えば、俺とゲンは間違いなく特殊だった。

もう一つの能力。

それは危機感が『ない』事だ。あまり聞こえは良くないように思われるが、それは違う。

言い換えるならば、死に直面したとしても、俺達は冷静にいられるという事。

恐怖を感じない。ナイフや拳銃と言った類いの物で狙われようと、頭が恐怖を感じさせてくれないのだ。

だから冷静に相手を観察する事が出来る。

全く焦らない。それどころか、凶器を持った相手が怖々とした表情を浮かべている事に、ある種の笑みが零れてしまう。

これも新しい発見の一つだった。

圧倒的優位に立つ者が、立場を逆転される瞬間を見る。その瞬間にこそ恐怖が存在する。

その発見こそが、俺に新しいステージを用意してくれた。

人はどんな優位に立って様が、劣性に居ようが、どの場面でも恐怖がちらつく瞬間が存在するという事が俺に活路を用意した。

どうやら人は、恐怖にあがらうことが出来ない生き物のようだと…。

恐怖こそが人を破滅に追いやる。そして恐怖こそが人を魅了するのだと…。

それが分かると俺は、それを試したくなった。

相手を圧倒する力を持つことにこだわる子供たちに、本当の恐怖を見せる。

それは力を見せつけるだけではなく、人の本質を見抜く力を相手に見せつける行為にこそ、相手を圧倒する力があるということ。

その点で言えば俺は、相手を掌握する事にたけているようだ。

常に余裕を残す顔の表情や、中世的な顔立ち。それに話し方も達観した様な口調。

それらはこのジャッジタウンという異質な場所であっても、不可思議な力を持っているようだ。

恐怖と優しさを併せ持つ俺の能力は、人を魅了するだけの力を持っているらしい。
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